この研究室では、ヘルスリテラシー(健康を決める力)、ヘルスコミュニケーション、ヘルスプロモーション、意思決定支援、健康生成論とポジティブ心理学、これらを支えあうサポートネットワークやコミュニティ、ソーシャルキャピタルづくり、ICT(Information and Communicaiton Technology)の活用などについて焦点をあてています。
そのために、市民・患者や医療者の視点からの研究を通して、適切な情報に基づいた意思決定や行動ができているかどうかを明らかにします。それは、本人が持つ潜在的な力(ポテンシャル)を発揮できているかどうかを左右しています。それを阻んでいるものは何か、必要な支援が受けられているか、その支援はどのようなものかを明らかにする必要があります。この研究室における看護情報学とは、適切な情報の入手、理解、評価、活用(意思決定や行動)ができる力をケアする領域と考えています。それは誰もが持つ力で、健康や病気という問題や困難を乗り越えることで学び、その経験を人生の糧として成長する力で、さらにそれをみんなで共有して互いに助け合う力です。この力がヘルスリテラシーで、その力を発揮できるようにするための支援が、意思決定支援やヘルスコミュニケーションです。そして、誰もがそれをできるようにする社会をつくっていく活動がヘルスプロモーションです。
看護学は、ずっと患者に寄り添い、患者中心を志向してきました。では、患者中心とは何でしょう。国際的にその定義は、患者の好み、価値観、ニーズに基づいた意思決定を保証し、そのための情報提供をし意思決定支援をすることです(アメリカIOM)。現在の看護職は、情報を対象に合わせてよりわかりやすく提供し、それを活用した意思決定ができるような支援、患者の潜在的な力が発揮できる支援をしっかりとできているでしょうか。できている人たちは、暗黙知ではなく形式知として、それらをわかりやすく普及させているでしょうか。
私たちの研究によれば、日本人のヘルスリテラシーはヨーロッパに比べてかなり低いことが示されています。これは、情報に基づく意思決定や行動ができていないということで、日本人の潜在的な力が発揮されていないことを意味すると考えられます。そのためのケアが不足しているともいえますが、日本の家庭医などの医療制度、保健教育、情報公開、男女平等、ダイバーシティ、メディアリテラシー、個人の人権、自己決定権、権威主義など山積した問題が背景にあると思います。
市民や患者、そして医療者や研究者、政策決定者も、知ると知らないのでは大違いなことがあります。だから情報は力だと思います。人生は意思決定の連続で、よりよい意思決定のためには適切な情報が必要です。しかし情報をわかりやすく提供・普及させるのは難しいことです。情報に基づく意思決定ができていない人、潜在的な力を発揮できていない人の権利を擁護するために、その提供と普及にもっと敏感になり努力していきたいと考えています。
研究室の2名の教員のバックグラウンドは、保健医療の社会学です。健康に関連した社会学で、ジェンダー・性役割、疾病と病い、患者中心性、健康生成論、保健行動、医療化、医療多元主義、医療者―患者関係、サポートグループ・患者会、健康格差、ソーシャルサポート、ソーシャルキャピタルなどをテーマとして研究に取り組んできています。看護情報学は、それらを含んでいて、情報という視点からものごとを見ることで、これまでにない研究ができると思っています。情報というとコンピュータと思う方もいるかもしれませんが、それはほんの一部です。生命とは、情報、物質、エネルギーの3つからなっています。 情報とは生命から発生したもので、より確実に生きていくための手段です。
看護学を専門とする方のなかには、すでに、がんや急性期・慢性期、精神や地域・公衆衛生、高齢者や母子、管理や教育などの専門性を志向しているので、専門外の看護情報学というのはどうなのか?と思われる方もいると思います。看護情報学は、すべての分野にまたがっているもので、それぞれの専門性をさらに発展させるものであり、大学院修了後はまたそれぞれの分野でさらに活躍をしてもらいたいと考えています。
海外で看護情報学を担っている方々は、必ずしもファーストスペシャリティではなくセカンドスペシャリティの方が多いと聞きます。海外ではセカンドスペシャリティを持つということが推奨されています。日本でも、それが広がるとよいと思います。
もちろん、大学では看護情報学の研究室も広がりつつありますので、そこで活躍されることも期待しています。
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